法医学的考察3

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特別抗告補充書第6について

 再審弁護団はその特別抗告補充書第6に於いて、本件屍体に関す
る法医学的見解を述べている。その中で死後経過時間については、
『そのほとんどが限りなく遅くとも死後2日以内であることを示し
ている』と結論付けている。そのような断定が全くの誤りである事
をこの「補充書第6」に即して記述する。
 
 まず、この補充書を良く読むと、一般に屍体が土中に在った場合
に於ける現象経過に関する知識が全く無いか、或いは故意に無視し
ているものと思われる記述が見受けられる。法医学的見解を述べた
結論部分である「すべてのまとめ」に『本件死体は土中に埋められ
たものが発見されたのであるが、土中にあったことが「死体現象」
にどのような影響を及ぼすのか詳らかには不明であるが、たとえ保
存的に作用するとしても、各死体現象が物語る死後経過時間を24
時間も左右するものではあり得ない』と記述されている事がそれで
ある。

 土中にあった事が屍体現象にどのような影響を及ぼすのか詳らか
には『不明』どころか、土中での腐敗進行速度については、
地下:水中:空気中=1:2:8の順で空気中より遅くなることは
「法則」でありこれをCasperの法則と言う。
例えば土中への屍体埋没が55時間であったとすると、実際の腐敗
進行速度はその8分の1=7時間弱である。従って『たとえ保存的
に作用するとしても、各死体現象が物語る死後経過時間を24時間
も左右するものではあり得ない』事は、全くあり得ないのである。
 *Casperの法則は腐敗進行速度への影響を述べたもので屍体現象全部に
  ついて適用されるものでは無いが)


 このような認識でもって書かれた本補充書の、では個々の屍体現
象解釈について、以下で検討して見る。なお、以下に於ける記述は
この「補充書」に対して、可也徹底的な批判になっている。しかし
勿論、筆者(=小生)が、「狭山事件の再審を開始させる」=「石
川さんは無罪である」と言う、弁護団と、その目的は同じくしてい
る事を、一応ここに付記しておきます。

 なお、石川さん無罪の法医学的考察として、当サイト内に「法医学的考察2→両面死斑ー石川さん無罪の絶対的論証」を執筆してありますので、是非そちらも参照して下さい。

再審弁護団の屍体現象判断

 角膜混濁=本件屍体の角膜が「微混濁」であったので、一般の法
医学書と『鳥取大学法医学教室の岡田吉郎・井上仁の両名がまとめ
た資料』に基づき『死後8〜12時間(4日午前11〜7時)又は
被害者の角膜の状態はどのように長く考えても3日間(72時間)
が認められる余地は全くない』。
 この鳥取大学法医学教室の「資料」は、昭和57年から同61年
に至る5年間に法医解剖に付された死亡時刻の明確な560例によ
る観察結果との事であるが、この560例の中に、目隠しをしうつ
伏せにされ顔の下にはビニルを敷かれて土中に埋没された例が何件
あったのかの記述は無い。
 
 角膜混濁は、死後体液の循環が停止する為、角膜への水分の補給
が無くなる事から発生する。故に、本件屍体に於いて、目隠しをし
た事、うつ伏せの姿勢で土中に埋没せられた事、その際顔の下にビ
ニルを敷いてあった事、これらの条件により、角膜の乾燥が相当程
度に阻害されたものと見て良い。うつ伏せの体位は屍体表面への血
液就下(死斑形成)と共に、体液(水分)全般をも就下させる。土
中では水分の蒸発は抑制される。目隠しとビニルがそれを増長させ
る。などの理由による。
 
 また「補充書」に角膜混濁は『蛋白質の変性による実質性混濁で
角膜の内層から始まる』ともある。蛋白質の変性とは要するに腐敗
の事であるから、この原因による角膜混濁は土中での腐敗抑制に左
右される事になり、よって『どのように長く考えても(死後)3日
間が認められる余地は全くない』とは全く断言出来ないのである。
 仮に屍体が死亡後半日以内の早い時期に土中埋没されたとすれば
なおさらである。

 死斑=死斑が「弱く淡い」「虎斑状」のものであったので、『死
体の死後経過時間が短時間にすぎないことを示している』その理由
は、死斑が最高(=強い色調に出、虎斑状ではなく融合する)とな
るのは死後15時間を経過した時であるから、と言うものである。
 本件屍体の死斑が身体の両面にある事を忘れた記述としか思えな
いものである。なるほど死後15時間を経過すると、死斑は最高と
なり融合するのであるが、本件屍体に於いては、まず最低7時間の
間仰向けの後、うつ伏せの体位変化(或いはその逆)があり、なお
且つ死後12時間を経過すれば新たな死斑が発生しなくなるのであ
るから、従ってまず屍体裏面に7〜11時間で死斑が出来、その後
表面に5〜1時間経過で死斑が出来たのであり、両面共に最高死斑
に達する15時間の時間経過は無かったのである。従って、死斑が
弱く淡い斑紋状である事を以て死後経過時間が『短時間』と断定は
出来ない。
 
 下腹部の腐敗性変色=死後24〜48時間(法医学書によっては
36時間)で発生するとされる腐敗性変色が見られないから『本件
の死体が腐敗性変色をいまだ発現しない程度に新鮮であった』と結
論付けている。屍体が腐敗していなかったのは、仮に死後3日を経
過しているとしても、長時間土中にあったならば当然の事である。

 血色素浸潤、腐敗網、腐敗水泡=死後2〜4日で現れるとされる
これらの現象が無かったのも、屍体が土中に長くあったならば、当
然である。

 死後硬直=本件屍体は足首以外はほぼ緩解状態にあったが『本件
の死体のように殺害場所から複雑な経過を辿って埋没されるに至っ
たのが容易に想像できる場合、硬直後種々の外力が加わったことも
充分考慮にいれなければならず(補充書での)死体現象が、いずれ
も死後経過時間が長くても2日以内のものであることを併せ考える
と、ますます外力による緩解を考えなければならない』
 要するに屍体運搬などの外力により、強制緩解させられた結果と
言うのである。すると足首以外の、顎関節、肩関節、肘関節、手関
節(手首)、股関節、膝関節の全てに対し、硬直を緩解させるほど
の強力な外力が加わったとでも言うのであろうか(しかも左右均等
に)。その場合足関節だけはそのままにして、それ以外の部分特に
顎関節に迄、無理に関節を曲げるような外力があった事になるので
ある。

 本補充書に於いて最も強引な指摘であり、且つまた硬直緩解状況
は最低でも死後48時間の状況を示している為、補充書中でも最も
苦しい記述となっている。
 また『硬直・緩解の一般論から死後経過時間を単純に推測するこ
とは適切でないのである』とも記されてあるが、死後硬直以外の上
述した屍体現象については土中にあった事その他の条件を顧みず、
「一般論から単純に推測」をしておいて、死後硬直だけこのように
記してあるのは適切ではないのである。

 死後硬直状況は春秋の一般的な状況を考えて死後3日〜3日半の
状態を示しており、仮に硬直を極めて早く緩解させるような特殊状
況があったと仮定しても、どう短くても死後2日=48時間以上と
見なければならない。
 従って「補充書」に於ける死後硬直の解釈は、全くの誤りである
と断言しなければならない。
 
 まとめ=再審弁護団の「特別抗告補充書7」は、石川氏無罪を主
張せんが為の余りに無理な法医解釈をしている。殺害は法医学的に
は(仮に死後硬直については「補充書」の意見を受け入れるとして
も)死後1〜3日(実際問題として死後1日=24時間程というの
は無理である。最短でも48時間程)と見るのが妥当であって、決
して『死後最大2日以内』とは断定は出来ないのである。
 弁護団によって、石川氏の無罪を勝ち取る為に記された資料であ
るからと言って、それだけでその全てを無条件に良しとする訳には
行かないと言う一例である。殊に法医学問題の様に、学問的緻密さ
を持っての考察が不可欠な分野に於ては、ある資料を自説の根拠と
する場合、別の資料及び見解を精密に対照し、最終的には自分の判
断で、結論を導かなければならない。
 *筆者自身は勿論石川氏無罪の立場であってこの点、弁護団や支援団体と
  全く同じ立場であるが、死亡推定日時に就いては上記の通り、見方を異
  にしている。

 尚、法医学関係の専門家の方で当頁の記述に就き、ご意見がある方はトッ
 プ頁より、メールにて是非ご一報下さる様、お願い申し上げます。

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