狂言誘拐・佐野屋以降殺害説 |
概 要 |
動機は営利目的。殺害は金員奪取失敗後、突発的に発生。
被害者とかねて懇意の不良青少年が、被害者を唆し、狂言誘拐に
よる被害者宅からの金員奪取を計画。「狂言」のニュアンスとして
は、被害者もグルと言うよりは、半ば彼女を騙しての事だったかも
知れない。脅迫状は4月29日以前にOGに書かせた。また、OG
には被害者を「監禁」しておく場所として、建設中の新居の提供を
協力させた。OGも騙されての事であり彼に犯意は無かった。
脅迫状と自転車は公式発表通りに犯人が届けた。自転車を届けた
理由はこれが本物の営利誘拐である事を強調する為。届けたのは或
いは被害者本人かも知れない、その場合は、もし見つかったら計画
は中止する予定であったろう。
佐野屋に現れたのは実際、身代金を奪取する事が目的であった。
従ってこの時点で被害者を殺害する予定は無い。こう考えるのは
殺人を犯した犯人が、張込み隊が待受ける佐野屋に、しかも捕まれ
ば死刑覚悟で現れたとは到底考えられないからである。よってこの
時点ではまだ殺害は実行しておらず、目的は身代金奪取だけであっ
た。
殺害は佐野屋での金員奪取失敗後。動機はこの失敗の腹いせ、或
いは被害者家族が警察に通報していた事への憤りか、又はこれらも
含め、被害者との間に何らかの諍いが発生した為である。ここ迄は
単独犯であった。
ここから先、少なくとも1名の共犯者の関与があった。想定され
る共犯者像は、犯人が所属(関係)している仁侠系団体の者。計画
外に被害者を殺害してしまった後、事後処理を依頼した。
殺害後の屍体埋没等の工作は、こうして複数犯により行われた。
屍体埋没は殺害後の3日未明のうちに実施された。
なお、当説を傍証する事実として以下の点がある。
1=屍体には精液が認められたが、もし犯人が初めから殺害を
計画していたならば、後で犯人の血液型が判明してしまう
この様な痕跡を残すであろうか。殺害そのものが精密な計
画に基づくものであったのなら、この様な事はしないと思
われる。即ち、当初は殺害するつもりは無くて被害者との
性交渉を持ち、殺害は突発的なものであった。
2=佐野屋への犯人出現が「真犯人による危険承知の偽装行為」
であったとしたなら、犯人の方から居場所を教える様に声
をかけるのは危険この上無い事である。既に殺人を犯して
いる犯人が、自らその居場所を教える様なものだからであ
る。よって、佐野屋は他の動機を偽装する為のものでは無
く、実際身代金を受取りに来たものである。
そして、事件後に於ける被害者家族の言動の不可解さに就いては
地元での遺恨や家族を巡る秘密などがあり、家族側がそれらを極力
隠蔽しようとした為である。しかし、それらの遺恨や秘密そのもの
は、事件とは何らの関わりも無いものであった。或いは、家族は、
事件が被害者自身も加担した狂言が発端であった事をある程度察知
した為、被害者と家族の名誉を守ると言う動機から、事件後のあの
様な態度となった。
また、殺害後屍体埋没も含め、全ての犯行が単独犯により行われ
たとする推理もあった。単独犯である根拠は、埋没方法等に複数犯
を示唆する情況があるが、もし本当に複数犯であったならばこの様
な痕跡を残すとは思えない事。また、仁侠系団体の様な者が、金に
もならないこの様な危ない橋を渡るとも思えない事である。
屍体埋没情況は犯行を複数犯と見せ掛ける偽装であった。
監禁場所は犯人の自宅、離れの様な処である。
OGの関与に就いては言及されていないが、恐らく脅迫状の代筆
をさせたと言う説であると思われる。 |
考 察 |
犯人が何故佐野屋に現れたのか、と言う謎を明解に説明した点に
最大の特徴がある。即ち「40人もの警察官が張込む佐野屋に、捕
まれば死刑覚悟の突撃をする筈が無い」と言う発想がそこにある。
仮にこの事件が被害者の殺害を含めて全て計画的なものであって
突発的要素が無く、佐野屋も「身代金目的を偽装」したものであり
即ち犯人はその様な緻密な計画性を持つ者と推理するのなら尚更、
佐野屋の様な一か八かの賭をするだろうか?と言う疑問から発した
ものである。
そこで動機を営利誘拐と見、殺害はあく迄も突発的であり、且つ
それは身代金奪取失敗後の出来事としている。
*当説乗りで少し考察して見ると、或いは、本当に「営利誘拐」が偽装だ
った、と言う説はどうだろう。つまり、動機は被害者が、家族を困らせ
たい、心配させたい、と言う事で、被害者のその希望に交際相手の青少
年が知恵と行動で手助けをした、と言うもの。吉展ちゃん事件を参考に
計画し、脅迫状を届けた(又はその前に脅迫電話も掛けた)。殺害はや
はり何らかの突発事項が起きた為。これならば佐野屋は更に「無謀な突
撃」などでは無かった事になり、「営利目的」は初めから偽装であり、
殺害後は増々、偽装の必要を生じた。それで屍体の埋没も、あの様にな
った。
当説に関する小生の反論は以下。
1=佐野屋以降の殺害は屍体の法医学的事実に反する。
2=捕縛されれば死刑と言う危険を犯して佐野屋に出現する事
への疑問が指摘されているが、全ての計画的犯罪者が死刑
の危険を考慮するものならばそもそも、「殺人」と言う行
為そのものを犯す筈が無い、と言う事になるのではないだ
ろうか。
3=犯人が殺害前の被害者と性交渉を持ち、精液を残す事に就
いては、そもそも血液型は4種類しか無いのであるから、
犯人の特定には情況証拠程度の意義しか持たない。これが
指紋などとの証拠能力上の決定的相違である。この点、脅
迫状をはじめとする証拠類に一切指紋を残さなかった本件
犯行様態は、充分に用意周到なものと言える。
4=事件発覚と初動捜査開始時刻が公式に発表されたよりも早
かった可能性が非常に高いが、この点に就いての説明が無
い。
5=また本件が「突発的な殺害であった」とする説に、小生と
して一般的な意味で疑問に思うのは、屍体の埋没があの様
な複雑な作業になっている事がある。
2は本件犯行に対する見解の相違であり、同時に犯罪一般に対す
る見解の相違とも言えよう。小生の立場は、「動機が割れれば身に
危険が及ぶ事を回避する為に、佐野屋への出現を計画した」事、そ
れを可能ならしめる為に「犯人側は事前に充分な工作と捜査情況の
把握をしていた」と言うものであり、この見解に立てば、佐野屋出
現は犯人にとって必要不可欠であった。他方「狂言誘拐説」に立て
ば、犯罪の本質が相違して来る事は当然である。想定する動機、犯
人像、犯行様態がそもそも異なり、それは即ち論者の犯罪観或いは
犯罪に於ける人間観が異なると言う事である。この異なる事を以て
「到底ありそうにもない推理」と断ずる事は避けるべきである。
3は字義通り。
4は本件に於ける重要な論点であるが、当説に適用すると、犯人
が脅迫状より前に被害者の「誘拐」を通告する必然性が余り無い。
そうなると、事件発覚はやはり公式発表通りと見る以外に無いと
思われるが、その場合には早い時刻から捜査が開始されていたと言
う証言(特に細田元所沢署々長の証言)をどう見るのか、その説明
が不可欠である。
5もほぼ字義通り。屍体には目隠しをしたり、後ろ手に縛ったり
首と足に細引き紐が結ばれていたり、足の方のそれには風呂敷の切
れ端が結合されていたり、他、玉石、茶葉が含まれていたりと、念
のいった細工が施されていた。こうした行為は、あらかじめ計画的
に行なった可能性の方が高いと思われる。突然の殺害、突然の屍体
遺棄で、あの様な埋め方をするだろうか、と言う疑問である。
1は最も決定的な反証である。その詳細は当サイトの法医学頁に
書いた。
当説論者はこの点に就き、解剖当初の五十嵐鑑定は、殺害が佐野
屋の後であっては困ると言う警察側のバイアスにより偽造若しくは
改竄されている疑いがあり、これを元にした死亡時刻判定はそもそ
も意味を持たないと述べている。また、殺害が佐野屋の後であった
可能性が高い事は、弁護団や支援団体などもそう主張している事も
根拠として掲げられた。
これらの点に就き法医学頁と多少重複するがここに記そう。
五十嵐鑑定に警察側の意図が含まれている疑いに就いては、角膜
混濁の情況(微混濁)、胃の内容物の情況(トマトその他昼食に含
まれていない食物の存在)の2点は特に、警察側の意図したい方向
からすれば、むしろその意図に反した鑑定所見である。
佐野屋後、警察の意図したい方向とは、殺害が誘拐直後であった
事、従って佐野屋での取り逃がしが被害者の殺害を招いたのでは無
い、と言う事である。
角膜の微混濁と、胃に昼食以外の食物が存在したと言う所見は、
少しもその意図に沿ったものでは無く、弁護団側はむしろこの点を
突いて、石川氏有罪への反証としている程である。
反面、五十嵐鑑定では「死亡時刻は食後最短3時間」などの記述
に見られる様に、明らかに過った結論を導き出してもいる。
であるからこそ、鑑定の結論部分と剖検所見部を別して考察し、
再鑑定を試みたものが弁護団が提出した上田鑑定であった。
よって、五十嵐鑑定の剖検所見部をも含めて警察側の改竄や偽造
があったとする根拠は全く無い。
またもし、「再審弁護団や支援団体も佐野屋後の殺害を主張して
いる」と主張するのならば、その当の弁護団・支援団体は五十嵐剖
検所見を元に再鑑定を施した上田鑑定を基礎にその主張を構成して
いるのであり、それならば、「五十嵐鑑定は警察の意向に沿った鑑
定結果を出しているから信頼性に欠ける。それを元に殺害時刻を割
り出す事は危険である。そして弁護団や支援団体も佐野屋後の殺害
を主張している」と言う主張はそれ自体、自家撞着と言うものであ
る。
更に、佐野屋後の殺害の可能性を示唆する弁護団側の主張には、
石川氏無罪を主張せんが為にする相当に無理な内容があり、それが
どう無理な内容なのかは当サイトの法医学3頁に所収した。
法医学鑑定に疑義があると言う場合には、どの所見にどの程度の
疑義が考えられるのか、その信頼性の程度を厳密に決定付ける事に
よって、疑義のある所見を事件の考察に利用する事の危険性を極力
排除する地道な作業が必要なのであって、その上で、最低限利用可
能な所見を総合的に適用して見ると言う努力をする事だ。その作業
を回避してたんに主観的な見解のみから事件の本質を推測する事の
方がより危険である(もっとも、この説を述べた人がそんな態度で
あったと言う訳では無い) 。
何故ならば屍体が語る情況は、最も緻密且つ客観的に、事件概要
を推定する事が出来る貴重なデータである。
とは言え個人的には当説が、事件にシンプルな解決を求めたもの
として最も印象に残った故、特にここに1頁を割いて紹介させて頂
いたものである。 |
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